コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

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■ 東京物語2023. 5.15

世界的名作とされる日本映画。
巨匠、小津安二郎監督の作品だ。
世界中の映画監督からの評価は「世界一」だとされている。

その名望に興が惹かれてあらためてDVDを購入して鑑賞してみた。
ナルホド。
確かに素晴らしい作品だ。
その芸術性、娯楽性において歴史の風雪に耐え得る「世界的傑作」の名に恥じない出来。

1953年11月3日に封切られた。
その年の春に海外の映画から着想を得て脚本を仕上げ、一気に撮られたらしい。
大したものである。
テキトーに作られて傑作と称される映画としてマイケル・カーチス監督のあの「カサブランカ」がある。
この作品も何回観ても面白いと感じさせる強烈な魅力がある。
製作過程はまるでドタバタ。
俳優女優イングリッド・バーグマンなどは「観たくない」と言って実際に観なかったそうだ。

さて物語は広島に住む老夫婦が息子や娘の住む東京に旅行する準備のシーンで始まる。
それぞれの子供の家族に触れることでそのいくらか冷淡な彼らの応対に失望させられ、旅の帰路での老妻の病の発症、地元での病没、葬式とその終わりまでを淡々と描いてある。

彼らに比較して戦死した二男の嫁(原節子演じる紀子さん)の心温まる件の老夫婦への「おもてなし」と対比させて「妙」だ。
即ち全体として美しい物語となっている。
際立って美しい表情、上品な所作、言葉遣い、心やさしく優雅な立ち居ふるまいが観客の心を打つ。
「家族の物語」として後年、山田洋二監督が「東京家族」を発表したがこれは見事な駄作であった。
本作の戦後まもない時代(戦後8年しか経っていない)、貧しい生活ぶり、住まい、風俗、いくらか享楽的で退廃的な背景が描き込まれている。
それらとの対比が実に興味深い。

熱海温泉への度に追いやられた格好の老夫婦が旅館の「ドンチャン騒ぎ」に眠れない一夜を過ごすところが当時の時代背景を流行歌や麻雀に興じる男女を通じて上手に描いている。
まさに「東京物語」だ。
蒸気機関車、所謂SLまで登場する。
亡き息子(戦死した)の嫁(原節子)の提案で、観光バスで東京見物をするシーンまでありサービス満点。
見どころ満載。
テンコ盛りの映画だ。

「東京」と聞けば田舎暮らしの筆者からすると子供の頃の「憧れ」から最近の「嫌悪」まで思いはさまざま。
ごくごく最近はそこに「親しみ」もいくらか感じる時もある。
東京がただ巨大なだけの「田舎」に見えたりするからだ。
東京の「銀座」も田舎町の「銀座」も「夜の店」の存在感として何ら変わることがない。
ただ「レート」(相場価格)に10倍ほどの差があるだけだ。
コストパフォーマンスもタイムパフォーマンスもひどく悪い東京銀座も小津安二郎で観る昔日(戦後すぐ)のそれはいかにも貧しく、現在の田舎のそれよりも見劣りする。
それでこの映画「東京物語」は一見の価値を有する。

「東京も田舎も日本も世界もまるで一緒」

「万国共通の認識」
それはそれらすべての人々に家族があり、パートナーがあり、男や女がいて色恋があり、人生があり、死があるのだ。
その恐ろしいまでの普遍性をあらためて示してくれる傑作映画が「東京物語」なのだ。

昭和28年当時(筆者の生年)の日本国の首都・東京の風俗、文化、人々のマナー、言葉遣い・・・少し違うようで根の部分は何ひとつ変わらない・・・それらが世界的評価の高いこの映画の観客に向けた冷厳なメッセージなのだ。
親子は「時間」によって離れさせられ、長い年月連れ添ったパートナーですらその「死」によって無残にも「離別」させられる。
この厳粛な事実を見事に描き切って鑑賞後の「余韻」もまた素晴らしく清々しい。
不思議な映画である。

ありがとうございました
M田朋玖



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