コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

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■ ヤマサキ2(小説)2021.10. 1

ヤマサキ「の」クルマは銀(ネズミ)色のライトバンだった。
運転手が乗っていてアパートの外の道路に待機している。
夜のドライブに出かけることになっているらしい。
俺達3人とヤマサキと運転手・・・どうも運転するのはヤマサキの実家の八百屋の店員のようだ。
ヤマサキの親が息子を心配してボディーガード兼監視役とのこと。
実家はM市の周辺地域で3店舗経営している。
まだスーパーマーケットの普及していない頃だ。
ライトバンのドアには「山崎生鮮」とのロゴがあった。

S大学付属高校。
俺達の母校であり、同時にヤマサキのソレでもあった。
偏差値は低く進学率は10%以下。
普通高校とは言えないレベル。
市内の学校の吹き溜まりの態で県外を含め全国から退学者を受け入れているようであった。
意外に女子が多く、彼女達は地元の普通の家のいたって正常な少女達であった。
本性は不明でも同市内の女子高生などより純朴に見える。
かと言ってまた容姿の良い女子も少なく「掃き溜め」の少年たちも何人かと「付き合っていた」がヤマサキ以下俺たちの眼中には無かった。
その少年(16〜17歳)の年齢として当然ながら「性欲旺盛」でないワケでもない。

ヤマサキには不思議に女の影が無かった。
ただ男が好きという風でもない。
サッカーやバスケットから卓球や剣道や空手、水泳などありとあらゆるスポーツに長け、それらのすべてに他を圧倒する断トツの巧みさとスタミナを見せ、その人間離れした運動神経の為にスポーツ高校からの「引き」もあったらしいがことごとく断ったという噂もあった。
また女子にも男子にも憧れの的であり、さらにまたその均整の取れた体型と容姿によって学校全体(教師を含めて)大スターであり一目も二目も置かれる存在と言える。
ただ繰り返すようにその不気味な人に恐れを抱かせる何かに怯えて誰も近づこうとしなかった。

身長175cm、体重70kg・・・推測。
染めてもいないのに白人のような栗色の髪はウェーブしていて短髪に刈られていた。
とり立ててオシャレをするワケでもないが制服でも私服でもひどく「カッコイイ」。
とりわけその身のこなしは敏捷で俊敏であくまで柔らかく、例えば豹か虎など野生の猫科の動物を思わせる静かさ、しなやかさで歩く時には軽く爪先立ちで音もなく床を滑るように歩いていた。

殆んど言葉を発さず無言で同級生や下級生・・・取り巻き・・・子分(自称している)達をその唐突な暴力と無表情で支配した。
その怒りの発端となる言動は誰にも推し量ることの不可能な類で、余人の知るところではない。
ただしその動機、その暴力の結果は「取り巻き」にとって父親や母親のソレのように愛に似た或る種の心地良さを生み出すようで強烈な恐怖と同時にそれをついつい求めてしまう・・・というような類の心理的にフクザツなモノであった。
件の転校生との事件後も教室はとりあえず平穏を保っていたが緘黙症の二人の少年は卒業を前にしても依然として勉強というモノを一切せず・・・それでいて件の転校生とは裏腹にヤマサキは恥ずかしくない成績・・・実のところクラスで一番であった。
オレはしょっちゅうヤマサキの突然の逆鱗に触れ不当な暴力の餌食となり、そのハライセに他のメンバーに「ヤツアタリ」的な暴力を振るった。
と言った按配で3人の子分達を連れて夜な夜なディスコに通って私服でナンパをしまくったが殆どうまくいった試しが無かった。

今朝の事件が、校内全体に、重苦しく澱んだ空気を漂わせた。それを吹き払うべく「遊び」に出たくても、先立つモノがない。それらの不首尾が簡単に予測できるし、この怠惰怠慢も仕方がない。
金も無く自分の部屋で暇を明かしてくだらない駄弁に興じているところに突然ヤマサキの来訪。
場の空気が固まり、そしてほどけた。
突然の来訪が、ライトバンでの「ドライブ」の誘いであったからだ。
「行くぞ」。



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