コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

コラム:ひとくち・ゆうゆう・えっせい

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■ ヤマサキ1(小説)2021. 9.28

ヤマサキが、部屋に入って来ると空気が変わった。
フラリと立ち寄った風で、部屋に入って来るなり無言で窓辺のサッシに坐って片足をあげ、その足で引き戸を押し付けながら開け放った夜空に向かってタバコをふかしている。その姿がまたひどくサマになっている。
車座の俺達3人は緊張して、「空手」(空手部のキャプテン)が一人は自然に正座になっている。
コーラを飲み、タバコを楽しんで屯していた「くつろぎ」は、ヤマサキの登場で張り詰めた冷風が流れ込み、あたりの空気を冷たく引き締めていた。
俺は内心嬉しかった。
ただヤマサキの来室が自分の中の「何かしらの恐怖」を緩和して或る種の「安心感」と「爽快さ」を胸底に生じせしめていた。

今朝の午前中の「事件」が思い出される。
土曜日の学校の教室。
授業中。
ホームルームで担任が校内での喫煙者の存在について「調べている」と説明していた。
教卓から離れた生徒の机の間を通りながら転校して来たばかりの「札つき」とされていた少年(!?)・・・しばらく前まで「少年鑑別所」に収監されていたらしい・・・の席で件の男性教師が立ち止まり、見下ろしながら机を差し棒でコツコツとたたき何やら話していた・・・。
するとその「鑑別所」が立ち上がり、その教師・・・を据わった目で見上げながら顔面を蒼白にしてボールペンを握りしめていた。
すると突然「ガチャ、ガタン」と教室内に大きなモノ音が立った。
本を読んでいた俺は驚いて飛び上がりそうだった。
いつの間にかヤマサキが「鑑別所」に体当たりをして、ついで彼の少年の手からボールペンをたたき落として教室の床に二人で転がりクルッと立ち上がると自席に戻り片肘をついて顎を支え空雲を眺めていた。
あたりには椅子と机が何個か散乱しているのに。
何事も無かったかのように。

一瞬、何が起こったのか分からず40人あまりの男女生徒達は呆然と二人の顔と担任の顔を交互に見比べていた。
突然の体当たりを食らった「鑑別所」は床に倒れたまましばらく
伏せていたが、これまた何事も無かったかのように自席に就いて不貞腐れた表情をかすかに口元に浮かべながら能面のような無表情を保っていた。
しかし目の奥の憎悪の鋭い光が窓際席のヤマサキを横目で捉えていた。
まるで獲物の存在を確認した蛇のような目で・・・。

「何やってるんだ、お前らは!?」
「後で職員室に来い!!」

担任だけが何も理解していない風であった。
ヤマサキはそのことを告げられても「どこ吹く風」といった態度で鉛筆を鼻の下で擦りながら教師の顔を見ようともしなかった。
終業のチャイムが流れると件の二人は別々に教室を出て素直に職員室に向かったようだった。

三人が出てゆく教室内は一斉にワーッと喚声が怒鳴り声のような音量で湧き起こった。
その「事件」についてそれぞれの憶測やら自分勝手な見解やらを論じ興じていたが、しばらくして二人の生徒が帰室するとサッと静まり返った。
全く違った意味で少年少女達は二人の存在感の不気味さに「恐れ」を抱いていた。
「鑑別所」は短躯でガッチリしていた。それなのに首が細く長く、印象として、虚弱で病的に見えた。
物腰も老人のように落ち着き払い、石のように無口でその声や言葉を発したのを誰も聞いたことが無かった。
転校時に教師から紹介され、教壇で微かに低頭し「よ-ろ-し-く」と一語ずつ区切って発した以外は。

同じ匂いがしていた・・・二人には・
それぞれが狂暴、危険。そうして相違点が、自分にはその時点で判然とはしなかったが、後で氷解することになる。
何かしら不穏な妖気が共通点で、特に「鑑別所」には底冷えのする酷薄さ、凶悪さがその顔相に宿っていた。
ウワサでは以前に退学になった高校で、喫煙を譴責された時に教師の眉間にタバコの火を押しつけた。集団強姦を指揮して「鑑別所」に、というハナシもあった。




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