コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

コラム:ひとくち・ゆうゆう・えっせい

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■ 冒険者2018. 2.25

「銀嶺の空白地帯に挑む〜カラコルム・シスパーレ〜」というNHK−BS放送を録画して3回も観た。
たまたま観ていたら画像が「凄い」と思ったいたところ、再放送があったのであらためて録画してしみじみと初めから鑑賞した。素人目には極限状態の絶体絶命、危機に直面して冷静で的確な判断と素晴らしい勇気と技術・・・とにかく全てにスリリング、大感動であった。

この手の山登りを扱った並の映画よりもお面白かった。
何しろ「生」であるし、今時のCGなどではなく超リアルな現実の実写記録なのである。初めて観る秀れたアルパインクライマーの殆んど垂直の絶壁のクライミングシーンは圧巻であった。

実際の2017年8月に標高7000m〜8000m級の氷の絶壁、それも未踏ルート(誰もその通り道を登っていない)を登攀(クライミング)するのは日本人のクライマー平出和也(当時38才)と中島建郎(当時33才)。
秀れた登攀技術を持つ中島と強靭な肉体と精神力を有する平出が渾身の力をふりしぼり生命がけで素人目には「ありえへん」ような絶壁に挑む。
まったく観れば観るほどクレイジーだ。

それにくらべれば自分達のバイクツーリングなどお庭の散歩ほどの危険もない。
標高の高い山の絶壁登攀などまさしく冒険(危険を冒す)そのものだ。

登攀前にベースキャンプで海千ならぬ山千の百戦錬磨のクライマー・平出ですら弱気になり迷う場面もあり人間的でリアルだ。
本物のクレイジーではないことの証でもあり、より親近感を憶える。

いつ起こるとも知れない悪天候の吹雪や雪崩に怯えながら熟練しているとは言え零下10℃前後の寒冷と平地の40%ほどの酸素濃度の空気の中、氷壁を一歩一歩時間をかけて着実に安全を確保しながら登るというのは並大抵の人間技ではない。
その気力と体力、スタミナ、度胸・・・。

「冒険」というもののレベルがそれを「業」にしている人間と、我々のような市井の一般人との差異はケタ違いであるように見える。

持って行く装備品も最長10日を目途に、食料は1日500kcal見当で極限まで軽量化しているのでゆっくりお気楽に登るワケにもいかない。
かなりスピード感も要するようである。
総重量13kgに抑えてある携行のバッグパックも中身にはテントや調理用の道具、食料など全てが大切なものばかりである。
それを失うこともただちに生命の危険をもたらすことが想像される。
少しのミスも許されない。
またミスをしても予定、スケジュールが違っても適応していかなければならない。
実際にそれらの予定変更や不意のアクシデントにも遭遇する場面がある。

それらを克服しながら時々は挫けそうになる気力、体力を自らを叱咤しながら(そう見えた)頂上を目指す大自然の驚異の中ではいかにもチッポケな人間の勇気ある挑戦に感動せずにはおれない。

1日約9時間あまりを激しい肉体労働とも言える生命がけの緊張状態でも氷壁登攀も1日僅か500Kcalの食料摂取だけで「持つんかいな」と思えるが、医学的・栄養的にはそれが良いのだ。
白ごはん換算で約300g摂取である。
昔の土方弁当では1箱400g以上であるから相当に少ない感覚である。

もしも炭水化物で、カロリーを大量にたらふく摂っていたら、まず寒冷地であるから風邪をひくかもしれない。
殆どの普通の感冒は過食と過労の組み合わせで発症する。
彼らの過労状態は折り込み済みとして過食は冒険の大敵である。
これ程の低カロリーと重労作と強ストレスでも無事に帰還した時には見たところ「体重減少」は来したりしていない。
どちらかというと心臓と腎臓に相当に負荷がかかったのであろう。
顔面など腫れぼったく浮腫、むくんでおられた。
これら医者としての観察も大変参考になる。
またあらためて減量というものの難しさを実感できる。
500Kcalと重労作くらいでは痩せないものなのであると。

「岳」という少し前の邦画があって、主演の小栗旬が大量のパスタを食べるシーンが出てくるが、これも山岳地帯救助隊(レスキュー)を描いてあってかなり面白かった。
この時の小栗さんが個人的には最も好きだ。
似たような邦画で織田裕二主演の「ホワイトアウト」がある。
これもストーリーは全く違うが内容的に山岳映画と呼んでいいだろう。
海外の作品ではシルベスター・スタローンの「クリフハンガー」が有名である。
名作「セントオブウーマン」で主演したクリス・オドネルの「バーティカルリミット」はこれらのジャンルの映画としての出来は良い方だ。
最近の作品はイマイチだ。
エベレストの大量遭難を扱った作品「エベレスト・死の彷徨」「エベレスト」とあるが両作品ともあまり面白くはない。

前記したドキュメント、NHKの「シスパーレ・・・」の方がはるかにエンターテイメント性が高い。
何しろハッピーエンドであるし、女性のパートナーの死を悼むという情感を刺激するエピソードもあったりして下手な映画より映画的だ。

それにしても登山、それも極めて困難な絶壁・氷壁に挑む人々の心根が興味深い。
「そこに山があるからだ」という昔からの名言があるが、確かに高い山とか木の上とか高いところに登ってみたくなる・・・というのは人間の本能かも知れない。
それはたとえば「空を飛びたい」「月に行ってみたい」「宇宙に飛び出してみたい」・・・のと似た人間の欲望、あくなき好奇心の表れかもしれない。

冒険心、好奇心、困難への挑戦意欲など人間の危険欲
求は、時には安全安泰欲求よりも強いかも知れない。
人の職業でも公務員と呼ばれる人々は社会的・職業的に安泰欲求が強いと言われているが、そういう危険欲求の弱い人が冒険心を持ったら趣味の世界で暴れるしかない。ただし警察とか自衛隊とか消防士の人達は公務員と言えども少し違う印象がある。

起業家や実業家には時々やたら冒険心の強い人がおられるようだ。ヴァージン航空の創業社長だったリチャードブランソンは経営は人に任せて冒険ばかりしていたらしい。
元々起業や実業はいくらか冒険的ではある。
冒頭の映像などを見るとみるみる冒険心が沸いてくる。少なくともそれがどんなに冒険的でも普通命までは取られない。取られると思い込む人は多いけれど。

ボクシング、自動車レースなど危険だと考えられているスポーツも数多い。
人間の冒険心にも果てしがないように見える。
オートバイのレースでも世界一危険なレースと言われている「マン島TTレース」
100年以上の歴史を持つこの競技はサーキットでなく一般公道で行われ、その荒れた路面を平均200km最高300km近くで競われまさに生命がけだ。
実際に毎年事故死が続出している。
それに出るなんてクレイジーそのものだが、先日NHK放送の特集で見た出場選手の一人は目とアタマは完全に「飛んで」いてまるでジャンキーのようであった。
勿論、他の多くの選手は表面的には一見大人しく立派な紳士であるが何せヤル事が全くクレイジーそのものだ。
公道を・・・それがいくら規制してあったとしても高速道路でもない道で300kmなんて・・・。
アリエヘン。
信じられない。
バカだ。
キチガイだ。
あんまり人には言えんけど。

ありがとうございました
M田朋玖



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