[戻る] |
■ 風のオリヴァストロ | 2019. 1.28 |
ひどく冷え込んだ冬の夕暮れ。 オレンジ色の満月が、東の家々を黒影に縁どらせ、地平線の直上で寝起きの子供のようにまどろんでいた。 コートの襟を立ててマフラーに顔をうずめコンサート会場である私営の小ホールに切符を買って入場した。 6500円。 「宮川彬良 音楽の夕べ」 知人でもあった九響のチェリスト、新日本フィルのバイオリニストのご縁のミニコンサート。テレビでもお馴染みらしい宮川彬良氏が、例の独特のジョン・レノン風のメガネと髪型といつものベスト姿。 おだやかな微笑みをたたえ100人程の聴衆を前に短いコメントの後にピアノ、バイオリン、チェロとトリオの合奏を始めた。 ギューギューに詰め込まれた狭い客席に上品な紳士淑女とお見受けする、いくらか知的な雰囲気の老若が静かに聴き入っている。 まさしく新春の「音楽の夕べ」にふさわしい温かく和やかな空間であった。 それは初めて聴くメロディーである。 演奏が始まって1分もしないウチに不覚にも突然に流涙しだした。 いったいなんだ、この現象は。 我慢できず号泣しそうであったが涙の流れるのをそのままに周囲の人々と同じように大人しくその美しい旋律を奏でる「音」に身と心を委ねた。 その演奏会のイントロダクションとエンディングに奏でられたのは、宮川氏の手による作品、「風のオリヴァストロ」。 エンディングは米国帰りの若い日本人の歌手が歌詞をつけて聴かせてくれた。 この時にも恥ずかしながら溢れるような落涙をこらえられず頬を濡らす。 年甲斐もなく・・・というより年令が涙腺をゆるませているのかも知れない。 妙なるメロディーと音が、背景や物語や何の前ふりがなくても、人を感動させ、涙まで流させるチカラがあることを思い知らされたのである。 宮川彬良氏をテレビでも拝見したことはない。慣れておられるようで巧みな話術を駆使して「音楽」について語ってくれた。 それは「あっちの方に向いている」と天井を指さしながら音楽についてのご自身の哲学を重苦しくない声調でさり気なく披露してくれた。 内心では「そうなのか」といぶかしく思っていたけれど、自分の感情体験になぞらえても、確かにそうだとおぼろげながら得心した次第だ。 「あっち」とはあの世のことらしい。 ついでに北原白秋の「からたちの花」の解説もしていただいた。 山田耕筰が曲をつけている子供の時に習う有名な学校唱歌である。 ♪からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ♪ ♪からたちのとげはいたいよ 青い青い針のとげだよ♪ ♪からたちも秋はみのるよ まろいまろい金のたまだよ♪ 🎵からたちの花のそばで泣いたよ みんなみんなやさしかったよ🎵 ♪からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ♪ これにも泣けたネ。 愛する人の亡失をさり気なく感じさせる。 「何が起こったのか」想像できる歌だ。色々な情景がありありと思い浮かぶ。 それにつけてもメロディーだけでもしっかりとした物語があり、それを想起させるチカラがそこに宿っていることに気付かされた。 勿論その言葉にも底知れぬパワーが秘められている。 音楽というものの奥深さを、感動と共に強く思い知らされた冬の夜の名実共に、心豊かな「音楽の夕べ」であった。 その夜は薬を服んでも興奮してうまく寝つけなかった。 これも久々のこと。 音楽と霊的なメッセージとが絡み合って脳の発電状態を混乱させたようだ。 それにつけても、めぐり逢いの縁とは不思議なものだ。 元はと言えば九州交響楽団所属のチェリスト、宮城県出身のM氏がこのご縁の中心的存在。 言葉数の少ない一見茫洋とした趣きの人物であるのに繊細な心配りのできるお人柄と見た。 自分の言葉はチェロに語らせている・・・といった風であられる。魅力的な人物である。 いずれにしても芸術というモノはすべからく天恵であるのだ。 それを見い出せる人、創造できる人、聴き出せる人、人に知らしめる人、味わう人・・・それぞれの立場で楽しむべきものでその価値を名や欲で貶めるのは勿体無い。 ありがとうございました M田朋玖 追記「風のオリヴァストロ」何度聴いても悲しみと共にのびやかな喜びも味わえる不思議な曲だ。 韓国人の歌手、ソン・シギョンの歌はもっと泣かせてくれる。 ここでも言葉は関係ない・・・。 音楽は国際共通語なのだ・・・と。 追記2 どうも1月は鎮魂の時らしい。昨年の今頃、大切な友人を亡くした。母親の命日も1月10日。 ありがとうございました。 |