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■ 夏バイク | 2018. 7.18 |
台風一過。 激しい降雨をもたらした低気圧が西日本各地に大きな爪痕(甚大な人的被害)を残して去り、その直後より梅雨明けと激しい猛暑が日本列島を襲っている。 太平洋高気圧と同時に大陸からの高気圧がこの極東の島国をスッポリと覆っているようで、雲ひとつない大気を易々と透過した灼熱の太陽光が、地表のすべてを焼き尽くすかのような勢いである。 そんな真夏の日曜日、7月15日の朝8時30分に総勢8台の大型オートバイで南に向け出発した。 山林を切り裂く涼やかな「森中道」を走った為かそれほど暑くもなく鹿児島県志布志市に到着するまでの行程は素晴らしく快適なものであった。 それでも正午に到着した物産館では太陽は天頂にあり、その燃えるような熱光線を容赦なく浴びせかけ、ただ立っているのでさえ息苦しくなるほどだ。 昼食に「天ざるそば」を胃袋に流し込み、バイクにはガソリンを入れ仲間と離れ一人帰路についた。 国道220号線・・・それは大隅半島(鹿児島県の東側の半島)を真直ぐ北上する。 途中から無料の高速道路・・・東九州自動車道でそれぞれ九州自動車道と宮崎自動車道とのジャンクションを経てほぼ一直線に一路我が居住地のある人吉インターまでつづいている。 高速に入り途中のPA(パーキングエリア)に乗り入れると案の定、炎天の為か連休の割にクルマも少なくトイレの脇の草むらに良い按配に桜の木の木陰がある。 それは日光の照射を色濃くさえぎるものではなく、淡く柔らかでささやかな緑陰であったがとりあえず日影にはちがいない。 そこに疲れたカラダを横たえ、靴を脱ぎ裸足になり、バイクジャケットと白いパーカーの胸をはだけて風にさらした。 時々微かな涼風がどこからともなく流れて来て、たぎった肌を優しく撫でる。 冷たいペットボトルの水をがぶがぶと飲み、缶コーヒーのブラックを少し舐めてバイクバッグを枕にしてしばしの仮眠を取った。 桜の葉から木洩れ陽がチラチラと叢に光を落とし、遠くで飛行機の音がクルマの走行音に混じって聞こえてきて、焼けつくような炎天下であってもそれなりに心地良い休息に浸ることが出来、ついでに短いうたた寝も味わえた。 ・・・起き上がって噴水型の水飲み口からカラになったペットボトルに冷水を入れて、ついでに自分のカラダにも衣服の上から水を被り再び出発した。 走行をはじめたら瞬間的に素晴らしい涼しさが体に染み渡ってしばしの愉悦を味わったがそれも束の間。 アッという間に元の暑気苦行の状態に戻った。 W800のエンジンは絶好調で淀んだように重くなり熱せられた空気の中、少しも熱ダレすることもなく低回転から高回転までスムーズによくまわってくれている。 軽やかに高速道路の車列を右に左に縫いながら飛ばしていると、ほどなくとりあえずの帰路の目標地点、熊本県最南端の人吉インターの出口に辿り着いた。 馴染みのガソリンスタンドに寄り、帰宅。入浴してクーラーを全開にし、裸のまま本格的な仮眠に入った。 午後4時、まだ太陽が西の空でその輝きと熱を少しも衰えさせていない時間だ。 遮光カーテンを閉め切って寒いと感じるほどの冷気を室内に満たして水族館の魚のように幸せな眠りに就いた。 それにしても夏に乗るオートバイは冬のそれとかなり違うようだ。 それはレジャーというより修業に近い。 しかしながら全然楽しくないというワケでもない。 それは夏の風物、ツール・ド・フランスを思い起こさせる。 真夏の炎天下に3000キロ以上漕ぎつづける自転車と比べたら「屁」みたいなものだ。 それらの雰囲気だけは楽しめる。 その上、それなりに素晴らしくノスタルジック。 少年時代のバイクとはやはり「夏」のものなのである。 大昔、夜を徹して寝る間も惜しんで乗りつづけたことが思い出される。 なんでこんなことが面白いのかなどとは考えもせずに・・・。 本能のおもむくままにオートバイにまたがって山を、海を、街を放浪した思い出・・・。 こんな喜びを若者にも味あわせたいけれど・・・。 今はゲームとかケータイとかパチンコとかテレビとか映画とか暑さの為にインドアで安易になされる「遊び」もそれなりに楽しいモノではあるけれど、季節を思い切り感じさせてくれる、いや感じさせられるオートバイを操作し運転する喜びには多分に冒険の味わいがあり、大人の心を少年のソレに変える力が宿っていてその疲労とは裏腹に心身を若返らせてくれる気もする。 翌日の海の日には日没手前の夕方まで深海魚のように冷たい室内で身と心を休息させた。 あのPAでの木陰の木洩れ陽を思い出しながら・・・。 ありがとうございました M田朋玖 |