[戻る] |
■ パニアケース | 2018. 4.13 |
平成30年4月8日は日曜日。 その季節の割にかなり肌寒い日ながら素晴らしい晴天であった。 何故かよく熟睡できて、恒例の「朝のビール」もタイミングを逃してしまった。 これは絶好のバイク日和だ・・・と思いつき、素早くオートバイ用の冬装束に身を固め、我が愛車ヤマハFJR1300にまたがった。 向かうは暖かい宮崎方面。 パニアケースに愛用のフェラガモのデカバッグ(それはとても高価らしいが戴き物である)をそのまま、中に本を数冊入れて半ば飛び出るように出発した。 3月に車検をしたばかりの古いオートバイはエンジンも快調。 春の眩しいほどに明々とした陽光の中、緑風を切り裂くべく高速道路に入った。 宮崎市の一ッ葉道路という有料道路の海岸側に建つ「ブルーポイント」というとてもロマンチックなたたずまいのレストラン・カフェがあって、そこでコーヒーとパスタやらを頼んで駘蕩とした春の海を眺めながら軽く「お茶」する・・・というのがとりあえずの目的である。 それはとても心和む、おだやかなひとときで気分も最高であった。 20才代から中型のオートバイで夜となく昼となく訪れた懐かしい「海辺のレストラン」で、昔はお店のオーナーとかそのお嬢さんとかとも親しくなって少しく会話もしたくらいであったが、もう30年以上も経っているのでそのような交流はない。 見知らぬ人が淡々と、ただの「お客と店の人」の境界を越えず、懐かしいと心から思えるほど長期間のご無沙汰の果て・・・それは10年以上昔・・・の久々の入店であった。 それでそのまま帰路について人吉に帰って来て行きつけの喫茶店、九州自動車道人吉インターチェンジ料金所のすぐ近く・・・に着いたところ右側のオートバイ用の固く装着された筈の硬質のケース(パニアケースと呼ぶ)が跡形もなく失くなっているではないか。 一瞬、サーっと顔が蒼冷めたのを感じた。 「何ということだ」 中には数冊の本だけでなく、それらよりはるかに貴重なキャッシュカード、クレジットカード、免許証、たまたま入れてあった多めの現金などが入っている大切なケースがあった。 それに高速道路の落下物であるからこれに起因する交通事故でも起こしてしまったら重い責任問題も生じる。 瞬間的に心の生じた不安と焦燥も半端なものではない。 とりあえず携帯電話で知人に相談したが当然ながら埒はあかない。 早々に高速道路の料金所に行ってみた。 そこは玄関を入ると右手に小さな非常出入口のような受付があって、小窓を開けて呼びかけると中年の白髪の感じの良い男性が笑顔ですぐに応待してくれて住所と名前を書かされた後に「事のイキサツ」を聴いてもらった。 ・・・するとすぐにあちこちに電話で連絡してくれて、どうも落下物が確認されているという情報があったので僅かだが希望も出て来たので待たせてもらうことにした。 そこは玄関の簡単な何の変哲もない青い長椅子で、心の中の不安と焦りと戦いながら呼吸を整えて、もし完全な亡失が明らかになったら面倒臭いなあなどとあれこれそれらの手続きについて頭をめぐらせていた。 通常の場合、落とし物は出て来ない。 それも高速道路上という特殊な状況だ。 「落下物が確認されている」という料金所の副所長と思しき人物の言葉にすがって午後4時から2時間あまりをその「待合室」で過ごした。 料金所の人々も日曜日ということもあってか結構忙しいようだ。 男性や女性が制服姿で駆けまわっている。 そして時々筆者に声をかけてくれる。 それも丁寧な言葉遣いで・・・。 冷たいお茶も出してくれた。 素晴らしい対応だ。 NEXCO(日本高速道路株式会社)は公的な設備管理会社とは言え民間企業になるのであるから純然たるサービス業で、盛んに「お客様」と呼ばれて奇妙な感覚を味わう。 決して悪い気分ではないが・・・。 こういう事案の場合、警察の高速隊とのやりとり手続きが形式的でも必要らしい。筆者の落下物(筆者のバイクのパニアケース)は道路上に転がっていたらしく、NEXCOのパトロールカーが無事に拾い上げ、持ち主の待つ人吉インター料金所に届けられ、バイクの残ったパニアケース(左側)との一致を警察官立会いの下で確認し正式に引き渡された。 まずはメデタシメデタシ。あらためて心のなかで神仏に御礼を述べた。 そのケースは傷だらけであったものの破損はしておらず、鍵もかかっていて中身も全く無事であった。 それはかなり丈夫な造りらしく、走行中に「落ちた」ということを除けば流石に日本製。 落下時の事故も落下物による事故も無く無事に持ち主の元へ戻って来てくれた。 ありがたいことである。 一般的には遺失物、忘れ物は返ってこないことが多いが20年ほど前に高速道路の売店に置き忘れたセカンドバッグも帰って来たし、こと高速道路での紛失・遺失については他の例も含め良果を得ている。 結構NEXCOとは良い会社なのかも知れない。 少なくとも警察との連携や情報交換、共同作業とか多いようで、そこには或る意味で強い安心感を覚える。 一般道ではこれは起こらないような気がする。 基本的に民間の企業が運営、パトロールしているワケではなくその道路を走るクルマや人々も決して「お客様」ではないのだから・・・。 昨年(H29年)の秋のバイクのエンジントラブルと言い、今回のパニアケース落下事件といい、いずれも幸か不幸か高速道路上であり、後者の「事件」については高速道路上であったことが結果的に良かったという好例である。 常にパトロールをしてくれるというのはありがたいものである。 高速料金も累積的には相当払っているのでこのくらいの恩恵も当然なのかも知れない。 少なくとも「お客様」には違いないのだ。 それにつけても昨年秋と今回のオートバイにまつわる事件も無事に落着して本当にありがたかったが、いずれの「事故」もバイク騎乗前のお墓参りをしなかったことが思い出された。 習慣化された手続きであるが、筆者にとってそれは只の儀式などではなく道路上の安全確認、一旦停止とか信号を守るとか左右確認とかと同レベルのとても大切な道路交通上、少なくともオートバイ走行上の安全運転行動のルーチンであるらしい。 ありがとうございました M田朋玖 |